地域の人に支えられて
焼津市立東益津中学校 3年 伏見 捺希

 小学生の頃から学校の帰り道には近所の人達がいて、いつも挨拶をしてくれます。新幹線のガード下に立ってくれている安全パートナーさん達に挨拶して帰るのはとても楽しみで、
「ただいま。」
と僕が大きな声で言うと、
「おかえり、捺希君。今日は早いね。」
と返してくれるのです。疲れていても大きな声で挨拶すると元気になりました。嫌なことがあった日も、安全パートナーさん達に悲しい顔を見せるのは恥ずかしくて、大きな声で挨拶をしました。すると、嫌なことも忘れてしまって、そこからまた元気に家まで帰っていくことができました。
 帰り道には、近所の人に会うことも多く、皆「お帰り。」と声をかけてくれます。毎日手を振ってくれるおばあさんや、いつも田んぼの中から声をかけてくれるおじいさんもいました。そして、学校の様子を聞いてくれるのです。僕は、友達のことや授業での出来事など、何でも話しました。皆、それを笑って聞いてくれました。
 低学年のある日、学校にザリガニを持って行くことになりました。僕は近所の用水路を探していましたが、なかなか見つけることができずに困っていました。夕方になってしまい、諦めて家に帰ると、それを見ていたおじいさんが、田んぼの中から三匹も見つけてくれました。とてもうれしかった思い出です。
 近くの酒屋のおばあさんは、僕の帰ってくる時間がわかっているかのように、いつも店先に座り、笑って手を振ってくれました。一度家に帰り、また遊びに行く時には、また手を振りながら店の前を通っていきました。
 そんなある日、いつも手を振ってくれるおばあさんのお店が閉まっていました。最初は気にしていませんでしたが、閉まったままおばあさんに会えない日が続き、なんだかとても寂しい気持ちになりました。そんな時、安全パートナーさんから、
「いつも捺希君に元気をもらっているよ。ありがとう。」
と言葉をかけられてとても驚きました。たった一言交わすだけでも、温かい気持ちになり、人を元気にすることができるのです。いつも見守ってもらってばかりだと思っていましたが、僕自身も誰かを元気にすることができたのだとしたら、とてもうれしいと思いました。
 そんな帰り道は中学生になっても続いています。成長するにつれ、小学生の時には気づかなかったことにも気づくようになってきました。通学路には、信号のある交差点や歩道がない道、車が多く通る道など、危ない場所がたくさんあります。今ではしっかり注意して歩くことができていますが、小学生が子供だけで通るには危ないです。小学生は、まさか自分が交通事故に遭うとは思っていませんし、起きてしまってからでは取り返しがつきません。きっと、言葉にならない切なさと悲しさが残り、何か出来ることがあったのではないかと後悔するでしょう。安全パートナーさんは、横断歩道などに立ち、自らが盾となり、僕達を危険から守ってくれています。朝早くから、暑い日も、寒い日も、雨の日も、僕達を見守って声をかけてくれる存在は、本当に大きかったと、今思います。安全パートナーさんだけでなく、子供にとって登下校時に頼れる大人がいると、安心感が生まれます。また、地域の人との触れ合いがあることも、良いことだと思います。子供の保護者にとっても、学校と家庭の間の、大人の目が行き届かなくなる部分を補ってくれる人々の存在はありがたいものでしょう。
 こうして地域の多くの人に見守られながら、もうすぐ九年が経とうとしています。酒屋のおばあさんも、田んぼのおじいさんの姿も見えなくなりましたが、僕の心の中にはいつも笑顔で挨拶をした温かい気持ちが残っています。そこを通る度、その思い出もよみがえってきます。挨拶は、その地域の景色を記憶させる大きな力を持っていると実感しています。人の気持ちも変えてしまうし、人生を変えてしまうこともあるのかもしれないと思います。
 もうすぐ、この通学路を通うことはなくなります。寂しくなりますが、こんな環境の中で過ごせたことにとても感謝しています。
 「地域ぐるみで未来を担う子供を守り、育てる。」「笑顔で挨拶を交わし、人と人との関わりを大切にする。」これからも、そんな地域で在り続けて欲しいと思います。僕は、ここで守られた九年間を忘れず、いつか恩返しができたらいいと思います。

小さなころから地域の方々に見守られ、育っていったことへの感謝の気持ちが温かなエピソードとともに語られています。地域の方々の多くの優しい目が、伏見さんの優しい心を育ててくれているのが伝わってきます。読んでいて、私も心が温かくなりました。