ぼくにできること
牧之原市立相良小学校 5年 海野 幹

 みなさんは、ヘアドネーションを知っていますか。ヘアドネーションとは、がんや白血病などの病気でかみの毛を失った人のために、かみの毛を寄付してかつら作りに役立ててもらう取り組みです。十五センチメートル以上のかみの毛が必要で、最低でも一年はかかります。みなさんも、だれかの役に立ってみたいと思いませんか。ぼくは、三年生の秋からヘアドネーションにチャレンジしたのです。
 九月、地域の祭りが終わって、母に、
「一緒にヘアドネーションをやろうよ。」
と言われました。全然知らなかったぼくは、
「ヘアドネーションって、何。ぼくにもできることなの。」
と聞きました。すると、母は、
「一つのかつらを作るためには、三十人以上のかみの毛がほしいんだって。小さなことだけどやってみない。子どもでも、男の子でも、人の役に立てることがあるんだよ。」
と説明してくれました。難しくなさそうだし、初めて聞く言葉に興味がわいていたこともあり、ひとまずやってみることにしました。
 前がみがのびてきて、じゃまだなと思い始めたころ、学校の先生やおばあちゃんに、
「かみの毛、のびたね。そろそろ切ったら。」
と言われるようになりました。四年生になり、さらにかみの毛がのびてきて、学校で先生に初めてかみを結んでもらいました。男の子でかみを結ぶのは変だなと思い、はずかしかったです。それから、サッカーの試合もかみを結んで行ったため、相手チームやその親から、
「君は男の子、女の子、どっち。」
「あの女の子のキーパー、すごい上手だね。」
などと言われるようになりました。ぼくは、なんでだよ、男だよ、男がかみをのばすのがそんなにもめずらしいのか、と思いました。かみの毛のことを言われすぎると、少しいらっとするときもありました。でも、よく考えてみると、男の子でかみをのばすのが変であるなら、女の子でかみが少ない子はどんな気持ちになっているのだろう。病気の女の子はどんなことを考えているのだろう。はずかしい、他の人に何か言われそう、自分のことを笑っている人がいそうなどと、ぼく以上に周りの目を気にしながら生活しているのではないか。やっぱりかつらが必要だと強く思いました。ぼくは、腹が立つこともあったけど、かみが長いことで自分を覚えてもらって少し有名になったり、友達も増えたりして、よかったと前向きに考えられることもありました。
 ぼくは、ヘアドネーションをやっていることを先生にも、友達にも言いませんでした。
「なぜ男の子なのに、かみの毛が長いの。」
「かみの毛がのびているけど、切らないの。」
と聞かれるたびに、ぼくは、
「まあまあ。いいじゃん、いいじゃん。」
と笑ってごまかしました。かみの毛が長いことがはずかしいと思う以上に、男であるぼくが人の役に立つためにヘアドネーションに取り組んでいることが照れくさく思えたからです。そして、不器用なぼくは、自分でかみを結ぶことができず、毎回先生や女の子にたのみました。みんなは文句を言わずに結んでくれました。ドライヤーでかわかすのが大変なときには、やめたいと心が折れそうになることもありました。そんなときには母が、
「まっすぐできれいなかみの毛だね。きっときれいなかつらになるね。」
といつもはげましてくれたので、あと少しだけがんばろうという気持ちになりました。多くの人に支えられて続けることができました。
 五年生になる春休み、かみの毛を切りました。そのときのかみの長さは、背中の肩甲骨にあたるぐらいで、寄付するために十分な長さでした。やっと終わるという解放感でいっぱいでした。頭が急に軽くなり、逆にはずかしい気持ちにもなりました。一ケ月後に賞状をもらってうれしかったです。男であるぼくがかみの毛を使ってだれかの役に立てたことは大きな喜びです。やろうと決めれば、性別は関係ないということがよくわかりました。
 ヘアドネーションを通じて、かみの毛の長い人の気持ちがわかったこと、だれかの役に立てたことは貴重な体験です。二回目のヘアドネーションは考えていないけれど、ぼくにできることはまだあります。それは、ヘアドネーションという取り組みがあることを周りの人に知らせていくことです。話を聞いても挑戦しようと思える人ばかりではないかもしれません。でも、ぼくが話すことで全く知らなかった人に、こんな取り組みがあることを知ってもらえたら、少しでも興味をもってもらえたら、ヘアドネーションに挑戦する人を支えてくれる人が増えたら、それだけで、だれかの役に立つことにつながります。だからぼくは、この貴重な体験を伝えていきます。みなさんも、だれかの役に立ってみたいと思いませんか。ぼくの話を聞いてみませんか。

男の子でも髪を伸ばすのが変であるなら、女の子で髪が少ない子はどんな気持ちになっているんだろう。」という幹さんの優しい言葉に胸を打たれます。大変だったことも周りの人に支えられて続けられたと感じられたのもよかったことです。これからこの活動が広がっていくことが楽しみですね。