自分を変える「きっかけ」
焼津市立港中学校 3年 長谷川 琴美

 弱い自分を認める。このことは私にとってとても難しいことでした。三年生になり、修学旅行や部活動の引退などがあり、忙しく感じる時もありましたが、それ以上に充実した日々を過ごしている自覚がありました。
 しかし、私には一つの悩みがありました。それは、両親に平等に愛されているのかということです。私には小学校六年生の弟が一人います。どんなことにも積極的で、何をやってもうまくいくようなタイプです。それに対して私は、スポーツや習い事など何をやってもよい結果を残せません。二年前から、両親は毎週のように弟のサッカーの試合に出かけていきます。楽しそうにサッカーについて話す家族の様子を見て、私は家の中で疎外感を感じるようになりました。中学校に入学したてでいろいろなことに悩んでいた私は、一生懸命努力している弟に「頑張れ」という励ましの一言すらかけられませんでした。
 中学校三年生に進級した私は「母は何もできない私をどう思っているのだろう」「平等な愛とは何だろう」と考えるようになりました。いくら考えても、なかなか結論が出ません。それはまるで、先が見えない迷路に迷いこんだようでした。考えても答えは見つからず、また勉強のストレスや毎日の忙しさが重なり、私はついに大きな過ちを犯してしまいました。
 今年の夏、私は塾をサボり、観たかった映画を一人で観に行ってしまったのです。一回ぐらいサボってもばれないだろう。どうせ私のことなんか心配していないし、という気持ちからでした。でも、やっぱり悪いことをしたら必ず天罰が下るものです。焼津駅で電車から降りて改札を抜けると、そこに父と母がいたのです。その瞬間、私の背筋は凍るように冷たくなり、何も言えず、立ち尽くしてしまいました。母は「塾の先生に謝りなさい」とぴしゃりと言いました。塾では、先生方が私を心配して、ずっと待っていてくれました。私は、「この時初めてとり返しのつかないことをしてしまった」と実感しました。しかし、そこにいた大人は誰一人怒ることなく、静かに「なぜこのようなことをしてしまったの」と聞いてくれました。私は、単純に遊びたかったという気持ちだけでした。でも、心のどこかに「母にもっと自分を見てほしい」という気持ちもあったので、つい「私より弟の方が好きなんでしょ。どうせ、私のことなんか心配してないんでしょ」と言ってしまいました。その瞬間、母はひどく悲しそうな顔をしました。そして小さな声で「そんなことはない。あなたのことも同じように愛している」と言い、泣き崩れました。父に「どうしてそう思うんだ」と聞かれ、私はここ数年感じていた疎外感についての思いをすべて正直に打ち明けました。その話を聞きながら、母は大粒の涙を流しました。私は自分の弱さに気づき、「これからは絶対にまわりの人に迷惑をかけない」ことを両親と約束しました。
 私は今まで困難に立ち向かわず、楽ばかりしていたことに気づきました。また、視野が狭かったことも後悔しています。今後は自分と誰かを比べるのをやめることにしました。
 自分には向上心がないなとも感じました。「このくらいでいいや」と思うと人は成長できませんし、現状維持に満足してはいけないとわかりました。人には夢や目標があると思いますが、現状維持では永久にその目標には届きません。私は、すぐにあきらめて投げ出したり、めんどうくさがって立ち止まったりする大人にはなりたくありません。自分と向き合うことで、本当の勇気とは負けない強さだと感じるようになりました。自分を成長させるためにこれからは、常に向上心と何ごとにも負けない強さをもち、努力し続けます。
 また、悩みであった「不平等」について自分なりの結論が出ました。それは、私が弱い自分を認めたくないことが原因で起きた勘違いだったということです。何の努力もしていない自分を認めたくなくて、努力して輝いている弟が、母にほめられている弟が、ただうらやましかっただけだと気づきました。弱い自分を認めた上で今までの自分の生活を考え直してみると、母は私達兄弟を平等に愛してくれていたことがわかります。私の部活動の応援にも来てくれていましたし、そういえば、弟の試合がある時には私を気づかって、いつも私の好きなハーゲンダッツのアイスクリームを買って用意してくれていました。今まであたりまえだと思っていたことが、すべて母の愛情だったと気づきました。
 そう考えると、今回悩んだことも、塾をサボったという過ちにもすべてに意味があり、それらが自分を変えるきっかけになったと思います。楽な成功なんてありえないと思いますし、失敗したからこそそこから見える景色があると感じます。これからは、弱い自分を認めながらも、勝ち負けを考えることなく、自分らしく、感謝の気持ちをもって、日々成長していきます。

人は失敗から学ぶ、と言われます。しかし、学べる人か否かは、その人の心構え次第です。解決を相手の変化に求めるのではなく、自己を見つめ、葛藤の中にある自己の弱さを乗り越えようとする決意が魅力的に綴られた、素敵な作品でした。