
第2065号2019年11月25日
県教研「特別の教科 道徳」特別分科会開催
静岡大学教職
センター准教授
松尾由希子さん
学習指導要領の一部改訂に伴い、本年度から中学校においても教科として道徳の授業が行われています。学校現場からは、検定教科書を使った授業や評価について戸惑いの声が聞かれるため、昨年度に引き続き、第69次教育研究静岡県集会の1日目午後に、「特別の教科 道徳」について考える特別分科会を開催しました。
始めに静岡大学教職センター准教授 松尾由希子さんが「『特別の教科 道徳』において期待されることと配慮すべきこと」と題した基調講演を行いました。その後、助言者として松尾由希子さん、実践報告者として御殿場市立御殿場南小教諭 大森友希さん、御殿場市立原里中学校教諭 岳野和明さんを迎え、日ごろの実践をもとに評価等の課題についてで全体討議を行いました。
基調講話
【1】道徳を含む今日の教育の方向性
全体討議の様子
- 学校教育においてキー・コンピテンシー(主要能力)の育成が求められている。
<キー・コンピテンシー>
- 社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する力
- 多様な集団における人間関係形成能力
- 自律的に行動する能力
- キー・コンピテンシーの育成という考えが道徳教育にも波及しているため、これまで読み物中心だった道徳の授業が、考え議論する道徳へと変わってくる。読み物資料を含めた資料をどう活用していくかが重要になる。
【2】期待される道徳科の指導方法、内容と教科書
- 親切、誠実、公平のような道徳的諸価値(よりよく生きるために必要とするもの)を理解するうえで、道徳的価値は大切でも実現が難しいという人間の弱さも理解すること、道徳的価値に関わる考え方は多様であることを前提に理解することが大切である。
- 自己の生き方について考えを深めるため、登場人物ではなく自己に置き換えて考えることが、これまでの道徳と大きく違うところである。
- 「質の高い多様な指導方法」の特徴として新たに加わるものに、問題解決的な学習と道徳的行為に関する体験的な学習がある。例えば、他者との議論やソーシャルスキルトレーニング、構成的グループエンカウンターなどが挙げられる。
- 多様な結論が考えられる読みものについては、資料を最後まで読まずに途中で切って考えさせる方が有効な場合がある。多様な考えが出てきた場合は一つの結論にまとめなくてよい。
- 「現代的な課題」の教材はほぼ教科書に入っていない。教科書を使うのは道徳の総時数の3分の2程度でよいため、残りの10時間ほどの時間で他の教材等を使って「現代的な課題」について扱うとよい。
- 近年、子どもの自尊感情を高める道徳教育が注目されているが、発達心理学では、思春期・青年期には自尊感情が低下する、むしろ低下することが正常な発達であるという見方がある。思春期の自尊感情の低下は必ずしも悪いことではないという視点の転換が必要。
【3】道徳教育を進めるうえでの配慮
- 他者の心情を理解することが難しい児童生徒には、動作化や劇化を取り入れたり、ソーシャルスキルトレーニングを活用したりすることが有効。
- 子どもたちをとりまく家庭環境は多様であるため、様々な事情を抱えた子どもがいる。教科書の「家族」のイメージに当てはまらない「家族」のもとで育つ子どももいるため、教材選びには配慮が必要。
