知る、想像する、伝える
浜松市立庄内中学校 2年 佐藤 汐乃果

 プロテニスプレイヤーの大坂なおみ選手が、警官による黒人男性銃撃事件に抗議するため、試合を棄権することを表明したというニュースを目にした。
「私のテニスを見ることよりも、もっと注意を向ける多くの重要なことがある。」
と訴えていた。
 私も小さい頃からテニスを習っている。ポイントを稼いでランキングを上げるためには、一試合も欠場する訳にはいかない。プロの大坂選手が棄権するということは、それほど人種差別が深刻な問題になっているのだと感じた。黒人が差別を受けていたのは、ずいぶん昔の話だと思っていたので驚いた。棄権してまで訴えたかった「重要なこと」について、私も考えてみようと思った。
 大坂選手は、ハイチ出身の父と日本人の母の間に生まれ、三歳から米国で暮らしてきた。
「私は、アスリートである前に、黒人女性です。白人が多数を占めるこのスポーツで、議論を始めることが出来れば、正しい方向への第一歩だと考えています。」
と、堂々と世界に発信する姿に感動した。私は、自分の意見を人前で言うのがあまり得意ではない。恥ずかしいし、どう思われるかな?と、相手の反応を気にしてしまう。大坂選手は、批判されたとしても、世界中の人々に「黒人差別」について議論するきっかけを作りたかったのだと思う。彼女自身も、今までに「差別」で辛い想いをしたことがあるんだろうなと感じた。自分も知っている痛みだからこそ、行動を起こさずにはいられなかったのだろう。
 他にも大坂選手は、警官による過剰な暴力や銃撃に遭った黒人被害者の名前入りのマスクを着用して、試合に出場している。決勝までの試合数に合わせ、七枚のマスクを用意している。七人分ということだ。テニスはメンタルが重要なスポーツだ。被害者とその家族のためにも、絶対に決勝までいって、七人の名前を世界中に知らせなければならないという責任は、相当なプレッシャーだと思う。そんな中、大坂選手は、準々決勝で、今まで全敗していた選手にも勝ったのだ。亡くなった人やその家族に対する優しい気持ちが、「絶対に負けられない。」という強い想いを生み、大坂選手を奮い立たせているのだと思う。
「世界中の人にマスクを見てもらい、名前を調べて、その人のストーリーや背景にあることを知ってもらいたい。」
という気持ちで、一試合一試合プレイしているそうだ。黒人でも白人でも黄色人でも、みんな同じだと気づいて欲しいと願う気持ちが伝わってきた。誰にとっても大切な人生だし、大切な家族や友達がいて、みんな同じなんだよと言われているような気がした。誰だって傷つけられて血が流れれば痛いし、家族を失えばとてつもなく悲しい。想像することが大切なのだ。銃撃されたのが自分の家族だったらと。遠くの知らない人のことだと思っていては何も変わらない。視野をもっと広げなければと強く感じた。自分と自分の周囲だけが幸せならいいやとみんなが思っていては、いつまでたっても世界中が平和になることはない。
 夏休みに読んだ本の言葉を思い出した。「エンパシー」という言葉だ。エンパシーとは、「自分がその人の立場だったらどうだろうと想像することによって誰かの感情や経験を分かち合う能力」のことだそうだ。イギリスの中学校では、授業でエンパシーについて話し合うそうだ。日本でも、そんな授業があったら良いなと思うし、世界中の学校でエンパシーを高める授業をしたら、もしかしたら、いじめが減り、様々な差別が減り、戦争もなくなるかもしれない。
 今、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」と書かれたTシャツを着る人がたくさんいるそうだ。その当たり前すぎるメッセージに驚いた。こんなことを訴えなくてもいい世界に早くなって欲しい。差別をなくすにはどうすればいいのか。今、私が人種差別について考えを巡らせているきっかけは、大坂なおみ選手の行動からきている。そのおかげで、アメリカで起きている黒人差別について「知る」ことが出来、それが自分だったらと「想像」することが出来た。そしたらその次は、勇気を持って「伝える」ことをしていきたいと思う。大坂選手のように、自分が正しいと思ったことを自信を持って伝えられるようになりたい。自分のことばかりではなく、誰かのために一生懸命悩んで、助けるための行動を全力で出来る人になりたい。そんなひとりひとりの小さな積み重ねが、世界の平和に繋がって行くと思うから。
 今朝、「大坂なおみ選手・優勝」の速報が流れた。世界に、七人分のマスクを披露出来、これでまた「知る」人々が増えただろう。

大坂なおみ選手の行動から、人種差別に抗議する思いを受け止め、自分に出来ることは何かを考えることができました。これからのグローバル社会において、人種差別は全人類で解決していかなければならない課題です。世界の問題に日本人としてどのように取り組むべきか考えた、すばらしい作品です。