本当に豊かな環境を追い求めて
川根本町立中川根中学校 3年 西澤 翼

 私たちの身の周りには、たくさんの昆虫が生活している。ここ川根本町も、豊かな自然と生き物に囲まれたすばらしい町だ。私は、幼少の頃から昆虫採集を続け、約千二百匹の昆虫と出会い、それらを記録に残してきた。
 そんな中で、最近になりこの大井川流域の虫たちに異変が起きていることに気付き始めた。数年前はよく見かけたミヤマクワガタやカブトムシが、あまり見られなくなってきたのだ。さらに、この事はカブトムシなどに限らず、自分以外の人も感じているようなのだ。私の祖父や母も、「昔はこんなデカいのがそこらじゅうにいたんだぞ」と口をそろえて言っている。友達は、「最近は夜に家の網戸に虫が来ない。去年はたくさんいたのに」と話していた。やはり、急激に虫たちが減少していることは間違いなさそうだ。自然豊かだと思っていた川根本町でさえも、いつの間にか生き物と掛け離れた町になりつつあるのかもしれないと不安になった。では、なぜこのような事が起こってしまったのだろうか。
 その原因は、人間の生活にあると考えられる。私たち人間は、生活を便利にするために、多くの森林を切り開き開発を進めてきた。しかし、その反面、もともとその地域で暮らしていた生物を絶滅に追いやり、生態系を壊してきた。この事は、今、世の中でもっとも広く知られている環境問題の一つだろう。だが、実はもっと複雑で隠れた原因が存在するのではないのだろうか。よく「木を切ることは自然破壊」「自然に手を加えることはよくないことだ」などと言われるが、それは間違っていると思う。人間が何も手をつけずに放置した自然では、育たない生き物がいるのだ。特にカブトムシは、人とのつながりが重要であると本で読んだ事がある。適度に手を加えられた環境こそ、生態系保護のために必要なのだ。
 では、適度に手が加えられた環境とは何なのか。そして、昔はなぜ生き物が多くあふれた豊かな環境が保たれていたのだろうか。今から六十年程前、里山で暮らしていた人間たちは、生活のために定期的に雑木林の木を伐採していた。適度に伐採を積み重ねることで、木にとっても育ちやすい環境が保たれていた。豊かに育った雑木からは樹液があふれ、虫たちにとっても絶好の棲(す)み家となった。人と木と生き物の三者のつながりが、お互いを支えていたのだ。そして、この関係こそが、豊かな環境であり、今と昔の違いであると言えるだろう。
 人間の生活の変化とともに、自然や生態系に大きな影響を与えている問題として、地球温暖化や有害物質の増加が挙げられる。ある地域の気温が上がると、もともとそこに棲んでいた生き物たちがいなくなるだけでなく、標高の異なった様々な地域に分布が広がることも考えられる。単に減少や増加が進むだけでなく、生息地にも影響を与えるのだ。また、人間は、豊かな生活を求めるばかりに、様々な自然を破壊する有害物を排出している。工場排水や農作物への消毒などがその例である。私たち人間の、「豊か」の感覚が大きく変わってしまったのかもしれない。
 このように、人間の生活の変化や地球温暖化が生き物に与える影響は、計り知れない。昨年の自由研究を通して、カブトムシの幼虫に適した土壌環境は、土中の微生物の量やはたらきに関係していることがわかった。土壌環境が乱れれば、微生物や幼虫などの生き物に影響が及ぶのだ。そして、少なからず、その土壌環境を人間が変えてしまっていることは、言うまでもない。
 川根本町でも近年、生態系の乱れを目にすることが増えてきた。オオチャイロハナムグリのような希少な種を、思いも寄らない場所で見つけたり、アカボシゴマダラのような特定外来種がごく普通に見られたりし、生態系の崩壊が始まっている。この町の放置された茶畑や害虫駆除のための消毒散布、川の汚れなどを見かけると、川根本町も自然とのあり方が変わりつつあることは否定できない。
 私たちは、この辺りでもう一度、環境保護と生態系について考え直す必要があると思う。人間の都合により、棲み家を失い姿を消していく生き物たちのことを。私は、昆虫の研究を通して、昆虫にとってのよい環境について明らかにしてきた。それに伴い、環境を乱している人間の生活や感覚の変化に責任を感じるようになった。もう、昔のような三者関係には戻れないかもしれないが、互いに支え合い生きる生き物たちに目を向け、できることから生活の仕方を変えていくことはできるはずだ。本来あるべき人と生き物とのつながりが再び結ばれる未来を思い描きながら、豊かな川根本町を守っていきたい。本当の豊かさを見失わないように、これからも多くの人や自然と関わり合いながら、生きていきたい。

翼さんが暮らす川根本町。その愛する町の豊かな自然を守るために人々がすべきだと思うことが根拠をもって表現されています。人の生活や感覚の変化に警鐘を鳴らすことで豊かな川根本町を守りたいという思いが伝わってきます。翼さんの願いが届き、人々が手を取り合い、世界の自然が保たれることを願います。