伝える力
焼津市立豊田中学校 3年 羽田野 友希

 「伝えること」これは、人と人が関わる中でとても大切になる要素ではないでしょうか。
 しかし、私は、一見簡単そうに思える、この「相手に伝える」ということが、今までとても苦手でした。誰かに何かを伝えなければいけない時、私は、一瞬にして心臓がドキドキ震え、声は小さくなり、目線も相手に届くことなく床へと消えていました。そして決まって周りから、
「何言ってるか分からない!」
「もう一度言って!」
そんな一言が返ってくるのでした。
 そんな私にこの夏、転機が訪れました。夏休みに入り、私の所属する吹奏楽部では、コンクールに向け、厳しさの増した練習が続いていました。私は、昨年の秋からサックスパートリーダーという大きな役割を任されています。それは、練習の中でメンバーの音を聴き、「ここがこう良かった。」「ここはこの方がいいんじゃないか?」などと、瞬時に判断して、正確に「相手に伝える」という、私にとって最も苦手なことをこなさなければなりません。また、音楽には様々な音色があり、感じ方に違いが生じます。例えば、時には優しくほっこりした音に、時には明るく弾むような音に聴こえます。その微妙な違いを正確に伝えなければなりません。しかも、「伝えること」が苦手な私には、「自分の思ったことは誰が聞いてもそう聞こえるのだろうか。」そして、「納得してくれるのだろうか。」と弱気な考えも湧いてきて、いつもより余計にか細い声で、「ここがこうなっているから、こうすると良くなるかもしれない。でも…。」と曖昧な感想をぼそぼそと言うことが精一杯でした。おそらく自分でも、「何を一番伝えたいか」分かっていなかったのでしょう。そして、顔を上げると、明らかに不安げな顔のパートのメンバーが目の前にいるのでした。
 そして、ある日、とうとう恐れていたことが起こってしまいました。いつものように私が、練習の感想を伝えている時のこと、
「この音から場面が変わってもっと明るい音になるはずだから…。」
「はい。じゃあ次いこう。Mからでいい?」
突然、同級生の子が私が話をしているのを遮って、次に進もうとしたのです。
(え?何で?)私は、驚き、
「ねえ!今まだ話してるけど!」
と少し声を張り上げました。すると、
「あ、まだ言ってたの?何言ってるか全然分かんない。」
と、不機嫌そうに言われてしまいました。その時、私は、(こっちも苦手なりに必死に話しているのに…。)とムッとした気持ちになりました。
 しかし、モヤモヤしたまま家に帰った時、もう一度その時のことを思い返してみました。確かにその時の私は、伝えたい相手ではなく楽譜を見ながらひたすら喋っていたし、相手から見ても楽譜に隠れて私の顔は見えていなかったでしょう。話し方も、ただぼそぼそ喋っていただけでした。私はあの時イライラしてしまった自分が急に恥ずかしくなり、ひどく後悔しました。
 そこで私は、話すことが得意で高校でも生徒会役員として、普段から「伝える」仕事をたくさんしている姉に相談をしてみました。すると、姉は話を聞いた後こう答えました。
「友希は、自分が伝えたいことを伝えることができれば、それで満足かもしれないけど実際それは相手に伝わっているのかな。伝えることより伝わることの方が大事だと思うよ。」
その時、私の中で何かが弾けました。今までいくら上手に話そうと考えても、うまくいかなかった理由がはっきりと分かった気がしました。
 それから、私は少しずつですが、話す時、一方的にならないように、相手の顔を見て反応を確かめながら話すことを心がけるようにしました。すると、いつの間にか私の目の前には、私の話に頷きながらペン先を楽譜に滑らせているパートのみんなの姿が見られるようになったのです。
 最近、言葉をメールやLINEで交わすことが増えている中で一番危惧されているのが、リアルコミュニケーション能力の低下だといいます。「コミュニケーション」とは、「言葉による意思疎通」です。直接的な会話をする中で、このコミュニケーションを成り立たせるには、相互に相手の心に想いを届ける伝い手と、想いを受け止め、安心感を与える聞き手が必要だと思います。文面だけでは伝わらないことも多いこの世の中、私がこの夏に経験したことは、これから人生の様々な場面で活かすことができそうです。
 「伝えることより伝わること」姉から教えてもらったこの言葉を忘れずに、これからも相手を大事にしたコミュニケーションを心がけていきたいです。

伝えることは簡単に見えてなかなか難しいものですね。この作品は、相手に「伝える」ためのヒントを与えてくれています。友希さんは、「伝えることより伝わることが大事だよ。」というお姉さんの言葉から「伝えること」と「伝わること」との違いに気づきました。さらに吹奏楽部の体験から相手を大事にしたコミュニケーションの大切さを感じています。これからも「伝える力」を大切に育てていってください。